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浦和地方裁判所 昭和58年(レ)13号 判決

控訴人 吉田正一

右訴訟代理人弁護士 安藤嘉範

被控訴人 清水祥祐

右訴訟代理人弁護士 新井藤作

同 金子包典

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  控訴人

「1 原判決を取消す。

2 控訴人が別紙物件目録(五)記載の土地(以下「五七二六番五の土地」という。)のうち別紙図面記載のABCAの各点を順次直線で結んだ範囲の土地(以下「本件係争地」という。)につき通行権を有することを確認する。

3 被控訴人は控訴人に対し、本件係争地上の塀を撤去せよ。

4 訴訟費用は、第一、二審を通じて被控訴人の負担とする。」

との判決。

二  被控訴人

主文第一項同旨の判決

第二当事者の主張

一  控訴人の請求原因

1  当事者、土地の所有関係等

控訴人は別紙物件目録(三)及び(四)記載の土地(以下同目録(三)記載の土地を「五七二六番三の土地」と、同目録(四)記載の土地を「五七二六番四の土地」と、これらを総称するときは「本件土地」という。)の所有者であり、被控訴人は同目録(二)及び(五)記載の土地(以下同目録(二)記載の土地を「五七二六番二の土地」と、同目録(五)記載の土地を「五七二六番五の土地」と、これらを総称するときは「隣地(一)」という。)の所有者である。

2  囲繞地通行権

(一) 袋地

控訴人所有地は、別紙図面記載のとおり、北側は訴外水沢清彦(以下「水沢」という。)所有の別紙目録(一)及び(六)記載の土地(以下同目録(一)記載の土地を「五七二六番一の土地」と、同目録(六)記載の土地を「五七二六番六の土地」と、これらを総称するときは「隣地(二)」という。)に、西側は隣地(一)に、東側は水路に、南側は第三者所有地にそれぞれ相隣接して、これらに囲繞され、わずかに五七二六番四の土地(幅〇・九一メートル、奥行一九・七〇メートル、別紙図面記載のヲAニイヲの各点を順次直線で結んだ範囲の部分)のみが西側に存する公道(以下「本件公道」という。)に接続しており、本件土地から右公道への通行には、右五七二六番四の土地とこれに隣接する前記水沢所有の五七二六番六の土地のうち別紙図面記載のイニルヌイの各点を順次直線で結んだ範囲の部分によって形成される通路(以下「本件通路」という。)が唯一の通路として利用されている。しかし、本件通路は、次に述べる事由により狭隘であって、本件土地の用法に従う利用を充すに十分でないから、同地は袋地である。

(二) 囲繞地通行権の範囲

控訴人は、住宅を建築することを目的として、昭和三七年四月七日当時一筆の土地であった五七二六番三の土地と同番五の土地を買い受けたものであり、右各土地の周辺は現に宅地化されているところ、控訴人は現在本件土地中通路部分の奥の主要部(五七二六番三の土地)に住家を建築する計画を有しているが、右建築は、建築基準法四三条、埼玉県建築基準法施行条例三条の規制の下では、本件土地から公路に通ずる本件通路の幅員が三メートルに満たないから、その確認が得られない状態にある。そこで、控訴人は、本件通路と併わせれば前記条例所定の幅員を構成することになる水沢所有の五七二六番六の土地の一部(別紙図面記載のヌルニホヘリヌの各点を順次直線で結んだ範囲の土地部分)と隣地(一)の一部である本件係争地につき、民法二一〇条の囲繞地通行権を有する。

3  しかるに、被控訴人は右通行権の存在を争い、本件係争地上に塀を設置、所有しているので、控訴人は被控訴人に対し、右通行権の確認と右塀の収去を求める。

二  被控訴人の認否

1  請求原因1の事実は認める。

2(一)  同2(一)の事実は認めるが、本件土地が袋地であるとの点は争う。

(二) 同2(二)の事実は知らない。控訴人の囲繞地通行権の主張は争う。

3  同3の事実は認める。

三  被控訴人の抗弁

1  別紙物件目録記載の六筆の土地は、もと一筆の土地(五七二六番、以下「本件元地」という。)で訴外斎藤忠志郎(以下「斎藤」という。)の所有であったが、同人は昭和三六年六月一二日本件土地を五七二六番一(現在の同番一と同番六の土地、隣地(二))、同番二(現在の同番二と同番四の土地、以下「旧隣地(一)」という。)、同番三(現在の同番三と同番五の土地、以下「旧本件土地」という。)の三筆に分筆したうえ、同三七年三月一五日旧隣地(一)を被控訴人に、同年六月一〇日旧本件土地を被控訴人にそれぞれ売り渡した。その後被控訴人は控訴人との間で、昭和三八年六月八日旧隣地(一)から分筆した被控訴人所有の五七二六番四の土地と旧本件土地から分筆した控訴人所有の同番五の土地とを交換し、他方、斎藤は、同三九年二月二八日隣地(二)を同番一の土地と同番六の土地に分筆したうえこれらをいずれも水沢に売り渡した。この結果、本件元地をめぐる所有関係は現状のとおりになったものである。

2  本件元地の右のような分割、譲渡の経過に照らしてみると、仮に本件土地が袋地であるとしても、それは斎藤がその所有であった本件元地から旧本件土地を分割して控訴人に譲渡したことによる結果であるから、民法二一三条の適用により、控訴人は分割者の所有地たる隣地(二)のみを通行できるのであって、この理は、同土地の所有権が前記のとおり斎藤から水沢に譲渡されたことによって変更されない。したがって、隣地(一)について控訴人主張のような通行権の成立する余地はない。

四  控訴人の認否及び反論

1  被控訴人の抗弁1の事実のうち、斎藤から控訴人、被控訴人両名への旧本件土地又は旧隣地(一)の所有権移転の経過は否認するが、その余は認める。

2  斎藤は昭和三六年六月一二日本件元地から旧隣地(一)及び旧本件土地を分筆し、同月二二日これらを訴外小沼三郎(以下「小沼」という。)に譲渡したところ、同人は同日右二筆の土地のうち旧本件土地を訴外山崎与蔵(以下「山崎」という。)に譲渡した。そして、その後小沼が昭和三七年三月一五日旧隣地(一)を被控訴人に、山崎が同年四月七日旧本件土地を控訴人にそれぞれ譲渡したのである。したがって、公路に通じない旧本件土地が生じたのは、小沼がその所有地の一部である同地を山崎に譲渡したことにもその原因があるから、控訴人は、小沼の特定承継人である被控訴人所有の隣地(一)についても民法二一三条の適用により囲繞地通行権を有する。

第三証拠《省略》

理由

一  控訴人が本件土地の所有者であり、被控訴人が隣地(一)の所有者であること、本件土地は、別紙図面記載のとおり、北側は隣地(二)に、西側は隣地(一)に、東側は水路に、南側は他人所有地にそれぞれ相隣接してこれらに囲繞され、わずかに五七二六番四の土地(幅〇・九一メートル、奥行一九・七〇メートル、別紙図面記載のヲAニイヲの各点を順次直線で結んだ範囲の部分)のみが西側に在る本件公道に接続しており、本件土地の主要部である五七二六番三の土地から右公道への通行には、右五七二六番四の土地とこれに隣接する水沢所有の五七二六番六の土地のうち別紙図面記載のイニルヌイの各点を順次直線で結んだ範囲の部分によって形成される本件通路が唯一の通路として利用されていることは当事者間に争いがない。

そこで、本件土地が袋地に当るか否かについて検討するに、一般に囲繞地通行権は袋地の効用を全うさせるために認められているのであるから、たとえ一応通行可能な経路が公道に通じている場合であっても、その経路によっては当該土地の用法に従った利用の必要を充すに足りないときは、なおその土地を袋地と解すべきである。そして、袋地が住宅用地として利用するに適したものである場合には、囲繞地通行権を認めるにあたっては、単に往来通行の必要の充足という観点のみに止まらず、住宅用地としての用途を全うさせるために、通行の安全及び防災などの見地から設けられている建築関係諸法による制限も参酌すべき事情として考慮に入れて通路の幅員を判定すべきものと考えられる。けだし、右法令による建築の制限は行政取締法上の問題ではあるけれども、かかる制限が現に土地の利用に大きな影響を及ぼしていることが事実である以上、その制限に私法上の意味をも持たせることが妥当であるからである。

ところで、前記当事者間に争いのない事実に《証拠省略》によると、本件土地は地目が雑種地であるが、これと相隣接する隣地(一)は昭和三八年に、隣地(二)のうち五七二六番六の土地は昭和四〇年にそれぞれ地目が宅地に変更され、現在これらの宅地上には建物が建築されていること、控訴人は昭和三七年四月七日、当時農地であった旧本件土地につき山崎が有していた農地法五条の県知事の許可を条件として買主となりうる地位(以下単に「買主の地位」という。)を同人から譲り受けたが、右当時から将来は同土地を住宅用地として利用したい旨の意向を有していたこと、本件土地の周辺地域においても現在宅地化が進んでいることが認められるから、本件土地(とくにその主要部である五七二六番三の土地)は、地目は雑種地であるけれども、その用途としては住宅用地が最適であると推認される。しかしながら、本件土地の位置・形状の関係上、これに適用される建築基準法四三条及びこれに基づく埼玉県建築基準法施行条例三条によると、敷地の路地状部分の長さが一五メートル以上二〇メートル未満のときは、右路地状部分の幅員は三メートル以上とされ、前者が二〇メートル以上のときは後者は四メートル以上と定められているから、本件通路は右法律及び条例所定の所要幅員に欠けるところがあり、本件土地中五七二六番三の土地上に建物を建築しようとしても建築基準適合の確認が得られないことになって、右土地の利用上重大な支障が生ずることが明らかである。右の点を考慮すれば、本件土地はこれを袋地とみるのが相当である。

二  そこで、進んで控訴人が囲繞地通行権に基づいて本件係争地を通行することができるかについて検討するに、前掲争いのない事実及び《証拠省略》を総合すると、次の事実が認められる。

1  本件元地は、昭和三六年初めころは斎藤の所有で(同人がもと所有者であったことは当事者間に争いがない。)、その東側は水路、南北両側は同人以外の者が所有する土地に相接し、西側のみ本件公道に面する農地であったが、同人の母は右のころその代理人として小沼に対し、右土地を南北に分割するのでその南側部分を買取って欲しい旨申し入れた。小沼は右申し入れのあった土地全部を買い取るだけの資力がなかったため、自らは右土地の更に半分を取得し、その余を山崎に買取って貰おうと考え、斎藤の代理人として山崎と売買交渉を行った。その結果、昭和三六年春ころ斎藤の母と小沼(本人兼山崎の代理人)との間に、斎藤において本件元地を隣地(二)、旧隣地(一)及び旧本件土地の三筆に分筆し、農地法五条所定の県知事の許可があることを条件として旧隣地(一)を小沼に、旧本件土地を山崎にそれぞれ売り渡す旨の合意が成立した。

2  ところで、前項の合意に付された条件が成就したときは、本件元地は三人の異なる所有者に分属するところとなり、旧本件土地は公路に通じない土地(袋地)になることが明らかであったため、小沼の発案により同人が旧隣地(一)のうち現在の五七二六番四に当る部分を、斎藤が隣地(二)の一部(現在の五七二六番六の土地の一部で別紙図面記載のイニルヌイの各点を順次直線で結んだ範囲の部分)を山崎が旧本件土地から本件公道に至る通路として提供することとし、土地家屋調査士の資格を有する同人もまた、当時宅地転用農地については右程度の幅員の通路が確保されていれば、旧本件土地上に建物を建築する場合でも岩槻市又は埼玉県土木事務所の建築行政の慣例上問題はないと考えてこれを承諾した(もっとも、実際に右のような幅員の通路が開設されたわけではない。)。

3  その後、旧隣地(一)は昭和三七年二月二六日に地目が雑種地に変更され、小沼がその所有権を取得するに至ったが、同人は同年三月一五日右土地を被控訴人に売り渡した。その際、被控訴人は山崎に対し、現在の五七二六番四の土地に当る部分を通路として提供することを承諾した。他方、山崎は昭和三七年四月七日控訴人に対し、その保有する旧本件土地の買主の地位を譲渡したが、同土地も同年七月五日雑種地に地目変更され、控訴人がその所有権を取得した。控訴人は、山崎から予め旧本件土地は袋地であり、同地から本件公道に至る通路に関しては前記のような合意が成立していることを聞知し、更に土地家屋調査士の資格がある同人から敷地が幅員一・八メートルの通路により公道に接続していれば、旧本件土地上に建物を建築する場合も建築基準適合の確認が得られる旨の説明を受けたため、これを信用して同人との間に右譲渡契約を締結したのであった。

4  控訴人は、旧本件土地の所有権取得後被控訴人に対し、旧隣地(一)のうち現在の五七二六番四の土地に当る部分を旧本件土地の一部との交換により取得したい旨申し入れ、結局昭和三八年六月八日右両者の間に旧隣地(一)から分筆した同番四の土地と旧本件土地から分筆した同番五の土地の交換契約が成立した。

5  他方、隣地(二)は昭和三九年に五七二六番一と同番六に分筆され、同番六の土地は同年六月八日に、同番一の土地は同四七年一一月一一日にそれぞれ斎藤から水沢に売り渡された。そして、水沢も、山崎からの申し入れにより、同番六の土地のうち別紙図面イニルヌイの各点を順次直線で結んだ範囲の土地を通路として提供することを約した。

6  控訴人は、山崎から旧本件土地の買主の地位を譲り受けた当時から、右土地に住宅を建築する予定であったが、資金不足のためこれを果たさずにいたところ、昭和四九年ころ本件土地のうち五七二六番三の土地上に建物を建築することを企画し、その旨の建築確認申請をした。しかし、右申請は、本件通路が建築関係法令所定の所要幅員に充たないという理由で却下された。その後控訴人は、一級建築士である林克に本件土地に建物を建築する場合、建築基準適合の確認を受けるためには本件通路の幅員等につきどのような要件が充たされなければならないかの検討を依頼した。林克は右依頼に基いて三つの案を作成し、これらについて予め埼玉県建築主事の長谷川輝彦に意見を求めた。林克が作成した三案のうちの一つの案は、本件通路を別紙図面記載のヌルヘリヌを順次直線で結んだ範囲の部分(五七二六番六の土地の一部)まで拡幅し、更に本件道路の奥の端末部分に広がりを持たせるため、同図面記載のニホヘルニの各点を順次直線で結んだ範囲の部分(五七二六番六の土地の一部)及び本件係争地まで延長するというものであった。長谷川輝彦は、林克から示された三つの案のうち右に摘示した案が最も望ましいという考え方を示したが、建築関係法令上の路地状敷地としての適合性の判断には、客観的、具体的な基準はなく、結局は建築主事が個々の事例について判断するほかないというのが実情であって、長谷川輝彦の右のような意見もその個人的見解の域を出ないものである。また、控訴人が本件係争地につき囲繞地通行権を主張する背後には、仮に被控訴人において応ずる意向があるならば、本件係争地と控訴人所有の五七二六番三の土地のうち別紙図面記載のCDECの各点を順次直線で結んだ範囲の土地(本件係争地とは地形も地積も同じ)とを交換したいとの希望を有しているとの事情も存する。

7  被控訴人は、本件係争地のうち別紙図面記載のABCの各点を結んだ線上に鉄製の塀を設置し、その内側に数本の樹木を植えているが、将来本件公道が拡幅される予定にあることから、現在右公道近くの敷地上に設置している間口一間程度の物置を本件係争地内に移築したいと考えており同土地を控訴人の通行の用に供する意思は全くない。

以上のとおり認めることができ、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、旧本件土地は控訴人がその所有権を取得したことによって袋地となったこと、控訴人が昭和三八年六月八日被控訴人から五七二六番四の土地所有権を交換により取得する以前には、控訴人と被控訴人との間に、控訴人において旧隣地(一)のうち現在の同番四の土地に当る部分を通行の用に供しうる旨の合意が存在していたことが明らかであって、これらの事実から、当事者らが右交換契約を締結するに至った目的は、控訴人が被控訴人所有の土地を通路として使用するという状態を解消する(控訴人所有の土地の袋地状態を解消する。)にあり、控訴人の申出により右交換に応じた被控訴人としては、右交換が実現すれば、将来にわたって自己所有の土地につき控訴人の通行を受忍しなければならないという事態は生じないとの期待を有していたことを容易に推認することができるのである。そうとすると、仮に控訴人において右交換当時、被控訴人から取得すべき土地部分と斎藤から通行を許容された部分から形成される通路(本件通路)を確保しておけば、五七二六番三の土地に建物を建築する場合建築基準適合の確認が受けられると誤解していたとしても、いったん交換で手離した五七二六番五の土地の一部である本件係争地につき改めて囲繞地通行権を認めることは、右交換における当事者の目的を根底から覆すとともに、被控訴人の前記のような期待を無に帰せしめ、被控訴人に相隣地の所有者として忍ぶべき限度を超えた制約を課することになるから相当ではないというべきであり、まして本件係争地は被控訴人にとって無用の土地ではなく、現にこれを使用し、また将来においても利用する計画を有していることをも考慮すれば、尚更である。

加えて、控訴人が主張する囲繞地通行権の範囲についてもその相当性に疑問があるといわなければならない。なるほど、前記認定事実によれば、仮に控訴人が本件係争地を通行しうることになれば、他の条件の充足と相俟って建築基準適合の確認を得るという控訴人の所期の目的が達せられる見込みはかなり高いといい得るであろうが、それはあくまで右目的達成のために充足されることが望ましい条件の一つというにとどまり、実際に数箇の代替案も考えられているのである。しかも、控訴人において本件係争地と控訴人所有の五七二六番三の土地の一部とを交換したい旨の意向を有していることからすれば、控訴人が本訴において本件係争地につき囲繞地通行権を主張するというのも、右交換の交渉を有利に導くための一手段であることを窺い得ないではない。これを要するに、控訴人が本件係争地全部を通行することが控訴人の前記目的達成のために必須の条件であるかについては疑問があり、かかる疑問が残る限り、本件においては、被控訴人に対し控訴人の右範囲の通行を受忍すべきものと断ずるには躊躇を覚える。

三  のみならず、前記認定にかかる本件元地の分割、譲渡の経過に照らしてみれば、控訴人が被控訴人所有地について囲繞地通行権を主張することは、もともと民法二一三条に牴触し、許されないと解すべきである。

すなわち、前記認定事実によれば、控訴人は昭和三七年四月七日斎藤が本件元地から分筆した農地たる旧本件土地についての買主の地位を山崎から譲り受けたが、同年七月五日同土地の地目が雑種地に変更されたため、ここに斎藤と控訴人との間に売買契約の効力が発生し、同土地の所有権が控訴人に帰属するに至ったのである。そして、右分割譲渡により公路に通じない旧本件土地を生じたことになるから(右当時、同土地の西隣に在る隣地(一)の所有権はすでに被控訴人に帰属していた。)、控訴人は、民法二一三条の適用により、譲渡者たる斎藤の残余の土地である隣地(二)のみを通行できる理である。もっとも、前記認定のとおり、隣地(二)の所有権は水沢に移転されており、このような特定承継があった場合にもその特定承継人に対して通行権受忍の負担を請求できるか否かは一の問題たるを失わないけれども、民法二一三条による被通行地所有者の義務も同法二一〇条による受忍義務と同様に相隣関係から生ずるところの土地に附着する一種の負担(物的負担)であるとみるべきであり、かかる前提に立つならば、右の点は積極に解すべきである。また、実際問題としても、仮に右の点を消極に解するとすれば、袋地所有者が自己が全く関与しない被通行地所有権の移転により不測の損害を被ることになるだけでなく、他の相隣地所有者も自己の関知しない被通行地所有権の移転により突如として通行受忍義務を負担する可能性にさらされるという不都合があり、一方特定承継人にも民法二一三条の適用があると解しても、特定承継人は買受けの際隣地との関係を調査することによってその負担の存在を知り、土地の買取価格に通行受忍義務の負担を反映させることができるし、仮に買受の際右のような処置を講じえなかったとしても売主の担保責任を追及する余地があるから、特定承継人の保護はある程度図りうるのである。

したがって、被控訴人の抗弁は理由がある。

四  以上の次第で、いずれにしても控訴人の本訴請求は失当であるから、これを棄却した原判決は結論において相当であって、本件控訴はこれを棄却すべきである。よって、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高山晨 裁判官 小池信行 深見玲子)

〈以下省略〉

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